2021年7月6日火曜日

Kowa Anamorphic-16映写レンズによるテスト撮影(夜景篇) Nikon Z7 II(4K)

Kowa Anamorphic-16映写レンズを使って撮影した前回の動画では、アナモルフィックレンズ特有の点光源から水平に伸びる横引きのフレアや、アウトフォーカス部分で楕円形になる玉ボケがあまりはっきりと現れていなかったので、もう少しよくわかるように夜景でテスト動画を撮り直してきた。
今回は撮影レンズ(New Nikkor 135mm F2.8)とフロントコンバーター(Kowa Anamorphic-16)の間に52mm径のC-PLフィルターを入れ、回転枠兼NDフィルターの代わりに使い、絞りはF2.8開放で撮影している。前回、ビデオ雲台(マンフロットMVH-500AH)のパン棒を輪ゴムで引っ張って水平パンをしたものの、腕が悪く見苦しかったので、今回はSky-Watcher AZ-GTiマウントを使って電動パンをさせている。DCモーターとギアによる作動音がマイクに入るため、音声は使えないという弱点があるが、手動では無理がある上下方向の微速度パンも可能である。
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スチル畑の者からすれば、レンズゴーストやフレアなどは、無いに越したことがないのだが、映画など映像の世界ではレンズ性能に対する価値観が全く異なるようで、レンズの光学的欠陥であるゴーストやフレアの類はむしろ、重要な映像効果と見なされているようだ。近年になってシネレンズを供給し始めたシグマのラインナップにも、コーティングをわざと取り除いたシリーズが用意されているなどという情報は、スチル畑の者にも気になる話だ。

映画の世界では、アナモルフィックレンズではない普通のレンズを「球面レンズ」と呼ぶらしい。写真用カメラの世界では非球面レンズという言葉には馴染はあるものの、そうでないレンズをわざわざ球面レンズとは呼ばないのでピンとはこないが、映画の世界ではアナモルフィックかそうでないかは撮影から上映まで何もかもが違うため、アナモルフィックでない普通のレンズを明示的に「球面レンズ」と呼ぶ必要がどうやらあるようだ。
アナモルフィックレンズは、シネマスコープなどワイドスクリーン映画の撮影に使われるもので、シリンドリカルレンズによって作り出される「アナモルフィックフレア」や楕円形のボケなど、レンズ描写に顕著な特徴があり、映画の雰囲気を模したシネルックと呼ばれる効果を映像に与えたい場合には、単に球面レンズで撮影した映像の上下に帯を入れるだけの方法よりも、ずっとそれっぽくなるというわけだ。現代のデジタルカメラでは、撮影した映像の上下を切って1:2.35のアスペクト比にトリミングしたとしても、十分な画質が得られるはずで、ワイドスクリーンのために水平方向を光学的に圧縮して記録することはそもそも必要無いが、映画の世界では現代でもアナモルフィックレンズが使われており、最近ではミラーレス一眼のマウントに対応した民生用のアナモルフィックレンズがSIRUIから発売されている。

今回、Kowa Anamorphic-16という奇妙なレンズを手に入れるまで、ついぞ知らなかったのだが、映写機用の古いアナモルフィックレンズを使って動画を撮影する方法は割と広く行われているようで、Youtubeではこの種の方法で撮影された映像を多く見つけることができる。また、楕円形の対物絞りにテグスを張ったものを撮影レンズに取り付けることで、アナモルフィック調のフレアやボケを得ようとするDYIの試みがあったり、クロスフィルターに似ているが十字ではなく横引きのフレアだけを発生させる「true-streak illustration」なるフィルターがシュナイダーブランドで販売されていたりと、世間にはアナモルフィック調の効果に対する需要はいくらかあるようだ。

レンズの欠陥によって引き起こされた、いかにも人工的な光学ノイズを、フィクションファンタジーの世界観を増強する効果として人類の感性が認識するようになった原因は、アナモルフィックレンズが映画にしか使われないからだろう。光学ノイズを映像効果に昇華させたという意味では、似た物に漫画やアニメで見られるレンズゴースト風の表現や、ゲーム映像などに見られる倍率色収差を模した色ズレ、周辺光量を落とした表現などが思い当たる。アニメの中でテールランプや眼光の演出などに見られるような残像表現は、撮像管時代の夜間映像の印象が起源になっているのかもしれない。縦引きのフレアはかつてCCDで撮影された映像に見られたノイズ(スミア)だが、それはファンタジー世界を舞台とした映像にはあまり登場しないようだ。CCDカメラは監視カメラやニュース映像、家庭用のビデオカメラなど、記録目的に広く使われたような印象が強く、ファンタジーとはあまり縁が無いのかもしれない。光学的なものではないが、かつての映像技術の欠陥により生まれていた電子的なノイズも、現代の映像作品に効果として用いられているのを見かけることがある。ヘリカルスキャンヘッドによる映像のつなぎ目に現れる水平ノイズを模倣したVTR調の表現や、ブラウン管を模したインターレス調の表現などがホラージャンルのゲームやビデオ作品の映像に見られたりするが、ふと気づくのは、これらがシネルックとは反対の目的に使われていることだ。映画調はファンタジー目的なのに対し、ビデオやテレビの技術を模した電子調のノイズは、フィクション作品に現実感を織り込む目的で使われている。光学ノイズと電子ノイズが人の感覚にそれぞれ反対のバイアスを掛けるのは興味深いが、そういった感覚は、我々が近代に経験してきた映像技術とそれによって作られた文化と記憶によって生じているのだろう。アナモルフィックからは話がずれてしまったが、映像効果としてのノイズについて考えさせられる機会になった。

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