2012年2月23日木曜日

D800/D800E - 3630万画素に想う

D800/D800Eは中判相当なのか
物理的な画面サイズの差は単に画素数という情報量だけでは乗り越えることはできない。同じ波長域の可視光線を撮影する限り、画面サイズが大きくなればなるほど、画面全体ではレンズの収差や回折などによる像のにじみは相対的に小さく見える。たとえレンズの解像力や画素数が変わらなくてても、画面サイズが大きいとよく写るのだ。大きいものではセンサーサイズがフィルムの645判と同等にまでなっている現在の中判デジタルカメラに、35ミリサイズのD800/D800Eが敵うはずはない。ニコンの宣伝では、D800/D800Eが中判デジタル一眼レフカメラや中判デジタルバックに匹敵するほどの解像感だと言っているが、それはいくらなんでも言い過ぎだろう。
3630万画素のD800/D800Eをフィルムに例えるならば、うんと粒子の細かい35ミリ判フィルムだ。これを物理的に画面サイズの違う中判カメラに例えるのは本来適当ではない。だが、仮にD700を35ミリ判相当とし、画素数が持つ情報量をフィルム面積と同様に解釈するならば、D800/D800Eは少なくともセミ判(2.7倍)かそれ以上の画面フォーマットが持つ情報量に相当することになる。これまで俺が使ってきた1210万画素のD700は、素晴らしく高いレベルで35ミリ判フィルムカメラの代用を果たしてくれた。その仕上がりは少なくとも645判の銀塩カメラを超えているように思う。D800/D800Eが記録することのできる非常に大きな情報量を考えると、仕上がりは少なくともフィルム式の67判カメラやそれ以上に相当するものであると考えて間違いないだろう。

写真の画面サイズと構図について
高画素数にはどんな効果があるのか。単純には、大きなプリントができる。 インクジェットでの一般的なプリント品質、300dpiで印刷する場合を考えると、D700の1210万画素ではA4サイズが最大なのに対し、D800は同じ品質ででA2サイズまでが可能になる。こういう話になると、決まって次のような話が出てくる。すなわち、「大きなサイズのプリントは、全体を見渡すために必ずや鑑賞距離も遠くなるのでより低いdpiで印刷することが可能になるからして、もっともっと大きなサイズにプリントしても鑑賞するには堪える」というやつである。だが、この話はあくまで小さなサイズで成り立っている写真を、構図が変わらないまま大きく引き伸ばす場合である。俺は写真の鑑賞距離というものは、プリントサイズではなく構図との関係で考えなくてはならないものだと思う。
3年ほど前、俺がRB67を使い始めたのとちょうど同じ頃、恵比寿の東京都写真美術館で行われていた、大判写真家の柴田敏雄さんの作品展を見に行く機会があった。なぜ、大きなフィルムを使うのか。中判カメラや大判カメラの経験がある方にとっくにお分かりのことなのだろうが、俺はそこではじめて、35ミリカメラと大判カメラとの「構図の違い」に気づいた。大きなフィルムを使うことの目的、それはプリント上の被写体の細部表現を保ったまま、画面サイズそのものを広げてより大きな範囲を画面に写しこむことなのだ。大判も使ったことが無い俺があまり偉そうなことを言うとお叱りを受けるかも知れない。俺が言いたいことは少しだけだ。要するに、中判や大判カメラを使った作品で、35ミリと同じ構図で撮影してはあまり意味がなく、それでは大画面の情報量を活用しきれないということだ。実際、大画面の情報量を存分に活用したそれらの作品の多くは、長辺が1.5メートルにもなるような巨大プリントであっても、手に取るのと変わらないくらいのかなり短い鑑賞距離を想定したような構図で撮影されていたのだ。そういう例もあるのだからして、誰が言ったか知らないが「大きなサイズのプリントは、全体を見渡すためには必ずや鑑賞距離も遠くなり云々」という話を、あたかもそれがすべてであるかのように言うのは正しくないのである。俺が6x7判のカメラを使うようになってからも、35ミリ判と比べて被写界深度が浅いだとか、同じサイズで鑑賞した場合には35ミリよりも高精細だとかそういう感覚はない。 唯一、リアルに感じられるのは、6x7判の画面中央部は同じ焦点距離のレンズで撮影された35ミリ判の画質と同一だが、それが周囲に4倍の面積でもって広大に広がっている、という感覚だけだ。

A4サイズを想定した構図のイメージ(D700 80mmレンズにて撮影)
これはD700で撮影したものだ。俺はD700を使うときは漠然と35ミリ判フィルムと同じくらい六つ切り~A4程度のプリントサイズをイメージして構図を考えている。この場合、被写体の質感がよく分かるようにするには、やや望遠寄りのレンズを使う必要があった。空や周囲の景色は入りきらないので、画面いっぱいに被写体の一番面白そうな部分を切り取った。

全紙サイズを想定した構図のイメージRB67 65ミリレンズで撮影
これは、上と同じ被写体を6x7判で撮影したものだ。俺は6x7判カメラを使う場合には、おおむね全紙くらいのサイズにプリントすることをイメージして構図を決めている。大きなプリントサイズでも画質を落とさないので、鑑賞距離を上のA4プリントの場合と同程度の距離にまで引き付けることができる被写体の細部を観察するのと同時に、視野いっぱいに広がる大きなプリントは被写体のスケール感も感じることができる。上部の空の割合をアンバランスに切り詰めた構図は、画面の大部分をこの被写体に占拠させることで一層のボリューム感を持たせようとしたものだ。

写真の構図の話となると、なぜだか「三分割法」のような、決まったアスペクト比のフレーム内における被写体の平面的な寸法バランスだけを説明しようとしている場合が多いような気がする。そして、決まって「三分割」だの「日の丸」「S字」「額縁」だのという言葉も出てくる。だが、写真の構図について、それらのキーワードを使って説得力のある合理的な説明をすることに成功している例を、俺は見たことがない。また、具体的なプリントサイズやプリント品質を想定して構図を解説している例も見たことがない。試しに、「写真 構図 三分割」などとググってみればその悲惨さが分かる。写真の話なのにどういうわけかイラストだけを使って解説するページや、作例に写真を使っていても、三分割法だの黄金分割だのを説明するために引いた分割線が 無理矢理のこじつけにしかなっておらず、何の説得力もない説明ばかりだったりする。

3630万画素を生かす構図
俺なら、高画素数のD800/D800Eは中判カメラのように使ってみたい。中判カメラを使う場合に、画面サイズの大きさを素直に実感することができるシンプルな方法は、その被写体を35ミリで撮る場合と同じ焦点距離のレンズを使って撮影し、画角が広くなった分プリント後の撮影倍率が変わらないように、その分大きくプリントすることだ。D800/D800Eは本物の中判カメラとは物理的な画面サイズが違うが、これと同じ方法を疑似的に行うことができる。例えば、D700とD800/D800Eを対比させるのであれば、ピクセル等倍時に被写体が各々同じ大きさに写る焦点距離のレンズを使えばいい。D800/D800Eでの14mmは、内側の1210万画素分の領域がD700の24mmと同じ画角になり、ピクセル等倍では被写体が同じ大きさになる。実際にはここまで画角の広い中判用のレンズは存在しないが、これはこれで新しい世界でもある。

D700(1210万画素)で撮影し300dpiでA4サイズにプリントする場合の構図のイメージ
焦点距離=24mm, 水平画角74度
D800/D800E(3630万画素)で撮影し300dpiでA3サイズにプリントする場合の構図のイメージ
焦点距離=14mm, 水平画角104度

2012年2月15日水曜日

Nikon D800/D800E

D700の後継機、D800/D800Eがようやく発表になった。残念ながらまだ公式のサンプル画像には画質を判断するのに向いているものがない。D800とD800Eのモアレ比較や解像感をした画像もあるが、サイズが小さく不鮮明で両者の違いがちゃんと分かるような比較画像はまだ無いようだ。いずれにせよ、個人的にはD800Eを所望している。